はじめに
妻面、もしくは貫通路と呼ばれるもの。
これは主に、鉄道車両の連結部のことを示します。そこには通路があり、通路を遮るドアがあり、窓があり…実は鉄道車両をデザイン目線で分解したときに、とても魅力がつまった場所なのです。
そこで今回は、管理者独断でランダムに通勤型10車両をセレクトし、そのデザインの魅力を語りたいと思います。それってあなたの感想ですよね?レベルですが、お楽しみいただけましたらと思います。
年代順で10例、ご紹介します。
貫通路の美学
1、妻窓に対するこだわり~近鉄2800系
まずは昭和の古豪から。近鉄では、ラインデリア車以降、奈良線系統の幅広車以外はこのような細い貫通路を採用しています。
この車両でみていただきたいポイントとしては、側窓と高さを合わせられた妻窓ですね。近鉄は早期から眺望性の高い大きな1枚下降窓を採用しており、妻窓もこれに高さが合わせられています。また、ガラスには着色ガラスを用いることで、カーテンのない妻窓であっても日差しを軽減する工夫がなされています。関西の列車らしさが感じられます。
2、管理者が一番美しいと思うバランス~阪急7000系
とにかく圧倒的にバランスが整っており、いつ見てもほれぼれする美しさの阪急7000系貫通路。屋根が高くなり貫通路の窓も下方に拡大され、全体的にスマートな印象に仕上がっています。妻窓の上部は角にゆるやかなRが設けられているのもとても美しいですね。窓下のアルミ金具がその印象を引き締めています。本当にベストバランスです。
3、あえて無塗装にするデザイン~JR西日本213系
国鉄時代最後の車両。2ドア転換クロスシートで、近郊型ということもあり最初から妻面には窓がありません。JR西日本移行後に体質改善工事と呼ばれるリニューアルが施され、グレートーンに変身しました。ここで注目したいのが貫通扉。まさかの無塗装ステンレスに変更されています。元々コストを理由にステンレス無塗装で導入され、のちに化粧板を張られるケースはしばしば見られますが、デザインのアクセントとして逆に無塗装化する例は他社では見かけた記憶がありません。JR西日本の最近の流行ですね。
4、きのこ型の理由は~阿武隈急行8100系
貫通扉のない妻面ですが、ご覧の通り非常に独特なキノコ型の通路となっています。ドアのない広幅の通路は関東を中心によく見かけますが、この中途半端な大きさは、おそらくワンマン運転時の、乗務員の見通しと、貫通路の安全性の両立を図った結果ではないかと思っています。すなわち、運転士が降車客を確認するためワンマン運転車両では貫通路の開放を図ることが多いですが、幅広だと安全面で課題があり、1人ぐらいの幅に絞ったのではと思うのです。確かにこの写真からも、絶妙に隣車両の見渡しは良さそうです。
5、面取り~西武4000系
妻面は、しばしば機器スペースとしても活用されます。空調や電力などの機器を収める函の設置には格好の場所です。この車両はかなり妻面に箱が張り出していますが、魅力的なのは函の中央側、ドア横に位置する部分が斜めに面取りされている点ですね。少しでも通路に広がりを持たせ、圧迫感なく、ぶつかって負傷するリスクを減らそうという、そんな意図が想像できます。
6、保守上の都合により~京阪9000系
こちらは京阪9000系の4~5号車間の貫通路です。奥に移っている貫通ドアを見ていただくとお分かりいただけるかと思いますが、ここだけ窓が下方に拡大されていません。この理由ですが、窓の下に貯金箱のような縦長の口が2つあります。実はここに、向かって左側の蓋に納められた「簡易運転台」をひっかけて、車庫内での入れ替え時にドアの窓が運転台になるという機能があるのだと聞いたことがあります。ちなみに先輩7200系は、普段は隠された窓が妻面に設置されていて、そこで入れ替え時の運転をしているようです。
7、鴨居はデザインスペースである~東急5000系
東急5000系グループは、年次や導入線区に合わせてバリエーションが豊富なのが特徴です。車内においても個性がありますが、特にその差異として目立つのが妻面の上部にある鴨居。ご覧の通り、濃い青色のパネルが横方向いっぱいに広がっています。ここを妻壁の色とセットでデザインすることで、個性を演出しています。この頃から鉄道各社で、「妻面は濃い色の壁にする」デザインが流行しています。たとえば住宅の浴室などでもこの頃から壁1面だけ色を変えるなどの流行りがあり、鉄道に限らず1面だけアクセントをつけるデザインは2000年代の流行と言えます。
8、とにかく大きな窓と、ドアの数の話~北総7500形
先述の東急5000系とほぼ同年代ながら、日車製のこちらは妻面の鴨居には一切張り出しがない、実にフラットなデザインですが、うっすら他と異なるベージュが彩られているのは同様の流行です。着目点は上にも下にも大きな貫通扉の窓。他社と比較しても京成系はとにかく窓が大きいです。さらに開放感がある理由ですが、このころの関東の車両では、「貫通路にドアは1枚」が流行りで、隣の車両にはドアが付いていません。これにより通り抜ける際はドア1枚の開閉で済み、コスト面でも有利です。一方、防音性はやや犠牲になっている面もありますね。
9、地下鉄車両に見られる工夫~神戸市営地下鉄6000形
最近の鉄道車両でもっとも流行しているのが、「全面ガラス張りのドア」です。究極の開放感とデザイン性を持つ一方、開放的過ぎてドアの存在感がないため、ガラスに彫刻やシールで柄を入れて視認性を持たせているのが特徴です。また、地下鉄車両では少しでも閉塞感を軽減するため、妻面には小さくても窓を設けることが多く、こと関西の地下鉄ではこのような小さな妻窓を各車とも採用しています。
10、最新のデザイン&対称へのこだわり~東京メトロ17000系
最後は最新のスタイル。前述の神戸市営と同様、ガラス張りの貫通ドアがアクセントですが、妻窓は設けられていない東京メトロの車両。代わりに機器スペースが設けられているのですが、この蓋を左右見事に対称デザインに設けてあるのは面白いところです。またその分ドアの脇にもガラスが設けられ、貫通路自体が昭和時代に近い、幅広型へ再び変化しています。シンプルかつ洗練されたデザインが際立った、令和の標準スタイルです。
終わりに
美学といいつつ、管理者が思うこだわりポイントやおしゃれポイントを並べただけの駄文になってしまいましたが、各車それぞれにデザインが異なり、工夫が施されていることはおわかりいただけたかと思います。マニアックな目線だと、化粧板の継ぎ目であったり、鴨居の構造であったり、色々な目線で分析でき、ワクワクするポイントなのです。
現在はガラス張りのドアが流行スタイルとなっていますが、今後貫通路や妻面と呼ばれる車端部にはどのような変化がみられるのか、とても楽しみであります。
その他
こちらの鉄道情報サイトに参加しています
よろしければ1日1回、クリックしていただけましたら幸いです。