はじめに
当ウェブサイトの管理者sosekiは、日ごろはアートディレクター兼グラフィックデザイナーとして、デザイン業務と呼ばれるものに携わっています。それゆえ鉄道の駅や車両に施された様々なデザインに興味があり、現在このウェブサイトを運営しています。※鉄道関係ではありません
今回は、鉄道車両が有しているデザイン性について、少しだけご紹介したします。
デザインとは
日本でのデザインは、絵柄や図案、レイアウト、装飾など、美術的な要素を含んだものの総称のように使われますが、元々は「設計」という意味がベースです(海外では美術的な表現を指すものを「style」と呼ぶそうで、実は当ウェブサイトのサイト名につながっています)。
したがって、鉄道車両のデザインを語るとき、大きく2つのデザインが存在します。
一つは「設計・構造のデザイン」です。別の言葉でいうなら、機能性…などでしょうか。何らかの使用上の目的のために施した設計を指すデザインですね。
もう一つは「意匠・アート性のデザイン」です。装飾性を持つもので、日本で一般的に言うデザインの領域です。鉄道車両の場合、車体のデザインや座席に対しての「プロダクトデザイン」、塗装や表示幕、案内装置、サインに見られる「グラフィックデザインもしくはインフォメーションデザイン」、あとは室内のカラートーンなどでみられる「インテリアデザイン」があげられます。複数の要素が絡んだものもあり、少々複雑ですがとても分かりやすいデザインでもあります。
尚、この分け方はあくまで一例にすぎません。本当にデザインという言葉は奥が深く、またデザイナーによっても、あるいは見る人側にとっても価値観に違いがあるため、今回の記事はあくまでsoseki目線だということを先に添えておきたいと思います。
その一つひとつについて、本日は簡単な例をご紹介します。
機能性を指すデザイン(設計)
究極のシンプルな通勤型電車といえる103系を例に挙げます。すでにいろいろご紹介したい点はあるのですが、その中から1つ触れます。
窓ガラスの角度にご注目ください。赤線で示したように、ガラス面は垂直ではなく、上から下にかけて角度が付けてあります。遠目に見ると、少し彫りのある印象ですね。
これには立派な理由があって、「運転時に、車内の灯かりが窓ガラスに反射するのを防ぐため」と言われています。暗い空間では、明るいところの景色が暗いところに移りこみます。たとえば、電車はトンネルに入ると、運転士の視界前方にあるガラスに、後方の車内の様子が、まるで鏡のように映りこんでしまうのです。これでは信号を見落とす恐れがあります。
この対策として国鉄電車では早い段階から窓ガラスに角度をつけています。もっとも完全に防げるものではないようで、背面の窓を小さくしたり、ブラインドを設置したりしています。
たった数度の角度ですが、これだけでも、立派な機能性を考慮したデザインなのです。
機能性と意匠性の間にある「プロダクトデザイン」
プロダクトデザインは割と広義な呼称で、どちらかといえば「製品デザイン」という意味で使用されることが多いデザインジャンルです。平面ではなく3次元を有し、手に取ったり触れたり、使ったりすることができる部分の「設計」を指すもので、最初に挙げた機能性デザインとしての性質も持ち合わせているのです。一方で見た目を指すことも多いため、芸術的要素も多分に持ち合わせています。技術でいうなら、CADとイラストレーション、双方の知識を融合する必要がある難しさがあります。
通勤電車としてプロダクトのデザイン性が優れていると感じるのはこの西武30000系ですね。ご覧のように、「笑った顔」がコンセプト。スマイルトレインという愛称があります。
機能性でみれば、先に挙げた103系と実はほぼ同一のパーツを有しており、前面窓、ワイパー、行先表示器、前照灯、尾灯、連結器、排障器(スカート)、すべて103系と同じです。ところが、スカートの開口部と車体の下部を、楕円形に切り抜き、その両端に丸型の前照灯を配置、さらにその斜め上にライン上の尾灯を添えることで、見事に「笑った顔」へと変身しました。助長するようにやさしいカーブを描いた窓と、美しく明るいグラデーションが映えます。女性にも親しみを持ってもらえる、愛着ある前面構造は、まさにプロダクトデザインだと感じます。
平面に対する意匠性「グラフィックデザイン・インフォメーションデザイン」
グラフィックデザインも歴史は長く、様々な世界各国の流行に左右されてきました。その性質故、どちらかとえいば「おしゃれ」「かっこいい」「かわいい」など感情に対するアート性のアプローチが重要で、それを以て「伝わることを目的」とするのがインフォメーションデザインの要素であります。主に後者の一例をご紹介します。
黒ベースに白縁、白文字がベースのインフォデザインを積極的に導入する相鉄線。アートディレクションは水野学氏によるもので、外観と合わせてブランド価値を向上するため、非常にシンプルにして統一感や世界観のある案内が導入されています。
ただ、特に2枚目が分かりやすいのですが、「すべてのデザインに関与できてない」苦しさもあります。たとえば、ドア上にある路線図やsotetsuロゴなどは、水野学氏が携わるより昔に別のデザイナーによって生み出されたVIによるもので、結果的に2種類のデザイン観が混在したまま共存している状況です。
また、ブランド感に重きを置いた結果、小さな文字が黒地に並んでおり、可読性に難があります。グラフィックデザインに限らない話ですが、「すべてをクリアするマルチなデザイン」というものは究極に難しく、たいていの場合「何か一つの目的・目標に重きを置いてデザインする」ことが多いです(超重要)。言い換えれば「あちらがたてば、こちらがたたず」ですね。sotetsuの新しい世界観は本当にクールで、横浜らしさを意識していることが伝わってきますが、他方で「暗い」「見にくい」「(古いイメージの)相鉄っぽさ、味がない」などの意見がSNS上でもチラチラと目に留まるのも、事実なのです。
空間のコーディネイト「インテリアデザイン」
多分、もっともなじみのあるデザインの一つではないでしょうか?皆様のお住まいでも、壁紙一つ、床、窓、カーテン、テーブル、ライトetc…これらによって成り立つ空間のコーディネイトを指すのが「インテリアデザイン」だと考えています。
こちらは西武の新型特急Laviewです。この特急の名称に込められたコンセプトの一つに、「Living(リビング)のような空間」というものがあります。それを体現するかのように大きなFIX窓が並び、ソファのように鮮やかで包み込む黄色いシート、上品に窓に掛かるカーテン、もちろん床はカーペット仕立てで天井はつやのある上品で温かい配色を採用しています。まさにインテリアデザインを体現した好例で、グッドデザイン賞を受賞しています。通勤電車も同様。車内という、人が過ごす空間に対して施された意匠性で、車両の個性や印象を左右する非常に重要な要素です。
おわりに
いかがでしたでしょうか?今回はデザインの概念というか概論というか、大枠のご紹介となりましたが、いかに鉄道車両が「デザイン」というものによって構成されているかも感じていただけたかと思います。機能性も、意匠性も、デザインは大変奥が深いものです。
当ウェブサイトではデザインという目線で見た鉄道について、今後もいろいろご紹介したいと思います。またの機会にもぜひご覧いただけましたら幸いです。
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