はじめに
今回は、非常に数多い近鉄の通勤型車両の中でも、特に異彩を放っている異端児のご紹介です。
1971年に登場した2680系電車までに製造された車両は、他社同様「非冷房」で登場しました。近鉄の場合、初期の非冷房車は「扇風機」を搭載していましたが、早々に「ラインデリア」と呼ばれる、屋根にストレートに通風口が通った送風機が採用されていました。今でも新型車両含め当たり前となった装備ですね。
その後、シリーズ21の増備に伴い扇風機を搭載した冷房改造車は次第に廃車され姿を消しました…が、実は令和4年1月現在、たった1両だけ近鉄線に残っています。これが本日ご紹介する車両です。
近鉄8400系「モ8459号」
近鉄8400系の3両編成はワンマン改造が実施され、主に田原本線で運行されていますが、その中で復刻塗装を纏ったB09編成という車両がいます。この中間車1両が、今回ご紹介する最後の「非ラインデリア車」になります。
すでに側面の時点で、だいぶ違和感がありますね…。
実は、そもそも近鉄8400系は「最初からラインデリア装備」で全車製造されています。ところが、このB09編成は当初2連で登場し、1976年に8000系1両を編入し3両編成化されました。それがこのモ8459号です。
詳しい経緯は割愛しますが、ざっくり略歴紹介。1966年に8000系2両編成として誕生しましたが、1972年に爆破事件があり、同車が被害に遭いました。その後1両が8400系、1両が8600系に編入されています。結果、1両だけ1966年製という古い車両が8400系に組み込まれ、現在に至っています。
外観上では車端部の窓割や屋根形状に、先頭車だった名残が見られますね。また、屋根上にベンチレーターが設置されていることや、側窓の高さなどにラインデリア車との相違があります。
それでは、この車両だけに見られる車内の特徴をご紹介します。
車内Pick up その1「天井」
なんといっても天井が一番の特徴です。当たり前ですがラインデリアがなく、代わりに扇風機があります。…うえの写真では扇風機が外されていますね。
むかーし撮影した写真を引っ張ってきました。化粧板や吊革に今と違いがありますが、青色の扇風機が夏場は設置されます。
そしてこちらが、他の8400系の天井。扇風機を設置する穴がなく、冷房装置の間にはラインデリアが設置されています。
また、実はラインデリア車は天井が低く、Rがゆるやかなのも違いです。非ラインデリア車は車端部などを見ると、かなり天井が高く、丸みを帯びているのが分かります。
車内Pick up その2「吊革」
先述の通り、天井が高いこともあり、非ラインデリア車はとっても吊革が長いです。最近になってプラカバーが付きました。
こちらはB更新を受けた他の8400系の写真。ひもが短いのが分かります。
車内Pick up その3「鴨居部」
非ラインデリア車は鴨居が狭いのも特徴です。京阪電車や阪急電車でも、このころの車両は鴨居の蓋が狭いですよね。
他の車両は上記の通り、鴨居の蓋が大きく、天井に沿って丸みがあります。
車内Pick up その4「広幅貫通路」
この2枚の違い、おわかりになりますでしょうか?
先述した天井部の丸みの違い(天井高さの違い)もよくわかりますが、着目点はドアの取っ手です。レバーの形状が全く異なりますね。モ8459号に見られる非ラインデリア車の広幅貫通路では、ドアには錠がありロック機構が搭載されていましたが、ラインデリア車では自動的にドアが閉まるタイプとなり、ロック機構が廃止されています。また、非ラインデリア車はドアが全開できるよう、レバーが収まるくぼみが妻面に見られます。
車内Pick up その5「荷棚」
荷棚にも違いがありました。ずばり、荷棚自体が短いのです。下の写真と比べてみてください。
他の8400系の写真です。広告枠と比べても、10cm以上の、かなりの差があるのが分かります。ラインデリア車では荷棚に改善があったのか、はたまた8000系と8400系の相違なのか…。
こんな感じで、かなりマニアックな目線も含まれますが、近鉄線でもう見られない仕様がいくらかあります。ちなみに、非ラインデリア車は近鉄本体だとこのモ8459号のみが生き残っていますが、養老鉄道線に走る元近鉄車は現在すべて非ラインデリア車なので、同じような仕様を見ることができます。
中間改造側の連結部の構造もオンリーワン!?
先頭部を改造した連結面の写真をご覧ください。
なんと…狭幅と広幅の貫通路がドッキングしています。手前がモ8459号で、先頭車から改造されたため狭幅、ドアなしとなっていますが、隣の車両は両開きの広幅となっています。こちら側から見ると極めて違和感のある状態です。
ちなみに別の例ですが、8000系電車にも3両編成化された車両がいますが、この場合は広幅貫通路の先頭車を狭幅化する改造を受けて、上のような見付に変化しています。なんか京王線みたいなバランスです。
話を戻して、モ8459はどうやって広幅と狭幅をつないでいるのか。モ8459号側から覗き込んでみると…
連結部の幌は狭幅タイプが使用されているのが分かります。では、反対側の8409号側から覗いてみましょう。
ご覧の通り、連結部に「スペーサー」が設置されているのがよくわかります。つまり、ドアは広く開きますが、通路自体は狭い幅となっています。
外側から見るとこんな感じで、右のモ8409号には連結部にスペーサーとなるユニットが設置されているのがよくわかります。こんな連結の仕方をしているのもこの車両が唯一となります。
終わりに
昭和41年製の車両がいまだ生き残っていること自体、かなり奇跡的だと思いますが、B更新を受けてからもしばらく経っており、8600系に改造された相方も近年になって先に廃車されていることから、この車両も実は先が長くないのではと思います。3連ワンマン車という性質上、後継車両がいまのところ出てきていないのが救いです。この夏も元気に活躍し、扇風機をブンブンと回してくれることを祈るばかりです。
関連項目
近鉄の車内デザイン記事 目次
こちらに近鉄の形式一覧と、その記事化状況をまとめていますので、合わせてご覧ください。
https://note.com/soseki1985/n/nb2108caa736f
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