はじめに
ある日、社畜ゲートウェイやStella Rail Sideでおなじみのねこ常務様からこんな連絡が来ました。
モケットとバケットって、何が違うの?
…というわけで、今回はちょっとした番外編。電車の座席でよく耳にする「モケット」「バケット」の違いと、ついでに着席区分のちょっとした話を書きたいと思います。
モケットとは?
ずばり、鉄道車両に用いられている座席の布地の名称ですね。こまかな材質の違いは色々ありますが、とにかく鉄道車両の座席のほとんどで、このモケットと呼ばれるほんのり毛並みのある布地を用いられています。
ちなみに、海外ではモケット張りはあまり見かけず、FRPなどによるベンチが主流。日本でも、例えば大阪市営地下鉄30系などは、登場時はビニールレザーだったことが有名です。通気性に課題があるため、今ではほとんど見かけません……が、こんな例もあります。
JR九州の817系のうち、初期に製造された転換クロスシートの編成では、なんと座席にモケットは用いられず、枕、背もたれ、座布団ともすべて革張りです。土台は耐火加工が施された木材でできており、デザインを重視して生まれた産物です。ただ、その後増備された車両では、モケット張りに再び移行していますね。この座席は九州すべての県で見ることができます。
バケットとは?
正確には、バケットシートと呼ばれる「座席の形状」のことですね。こんな座席です。
おわかりになりますでしょうか?一人ひとりの着席箇所が、背もたれ、座布団とも少し凹んでいるのが。これがバケットシートと呼ばれる形状です。
バケットはバケツを意味するようで、その形状の通り、窪ませたシートをバケットシートと言います。自動車や旅客機などでも同様の名称が用いられています。
目的は安全性や快適性などもありますが、鉄道車両の場合はたいてい「ただしい着席を促すため」のものが多いです。例えば上の座席は、パッとみて5人掛けであることがわかります。これを無視して適当に座ると、お尻が傾いて違和感があります。現在では通勤型・特急型に関わらず、ほとんどの新製車両でこのタイプの座席が用いられていますね。
バケットシートはいつから流行ったのか
これは体感ですが、おおむね80年代末期から急に増え始めた印象です。古いものだと、JRの211系などでしょうか。90年代に入ると、首都圏の多くの車両がこのタイプの座席で登場しています。混雑が激しい首都圏だからこそ、座席に正しく着席してほしいという思いから増加したものと思われます。
一例として東武鉄道の話です。東武鉄道は比較的バケットシートの導入は遅く、90年代初期に製造された10030系や20000系は通常のモケットでした。90年代後半になると、バケットシート化が実施されましたが、過渡期の車両ではこんな現象が…。
1996年にフルモデルチェンジされた通勤型として誕生した30000系。初期の2編成は、紺地に赤い着席区分柄が入った座席で登場しましたが、3編成目からは…
…座席の座布団が着席箇所でくぼみのある、バケットシートに変化しました。背もたれに大きな変化はありませんが、より明確に座席の着席箇所が示されたように思います。
ちなみに、正しい着席を促す手段としては、他にもこのようなものがあります。
ずばり、座席の中間部に仕切りを設けるというものです。この座席の場合は、およそ3-3-3人ずつに仕切られていますね。このような工夫は他に阪急電車などで見られます。一方東急では、スタンションポールの設置に合わせてこの仕切りは撤去が進められています。
地域性がある…?
前述の通り、首都圏ではあの手この手で座席定員を明確化し、ただしい着席を促すため積極的なバケットシートの導入が進められましたが、同時期の関西では…
実は関西では割と最近まで、バケットシートを本格採用した車両はほとんどありませんでした。確たる理由はわかりませんが、うちの親などは、バケットシートだと座席が硬い、太った人が座れないetc…などと文句を言っていました。空いている車内では、バケットシートではないほうが伸び伸びと座れる…といった気持ちなのでしょうか。ちなみに、さすがに関西でも近年の新車は、阪急系列を除いてほぼバケットシートで導入されていますね。上記の地下鉄も更新時に座布団がバケットシート化されています。
関西でもいち早くバケットシートを導入した会社が1つありました。
それが南海電車です。1000系や2000系の2次車から、いち早くバケットシートを導入しています。南海はE231系タイプの車体を導入したり、なにかと関東の流行を取り入れる印象がありますね。
これはバケットシートなのか…?
前述したとおりバケットシートは、一般的に窪ませた座席のことを指す言葉だと認識しています。
ところで、これはバケットシートと呼んでいいのでしょうか?
…たしかに座布団は若干くぼみがあるので、バケットシートと呼んで間違いないでしょう。ただ、背もたれは木製に布をはったもので、木製部分はほとんどくぼみがありません。
着席区分を明確にするために、個別分割されているだけのシートをバケットシートと呼んでよいものかは、正直、よくわからないと思っています。
終わりに
そんなわけで、今回は似て非なる座席用語「モケット」と「バケット」の話でした。…というより、ほとんどバケットシートのお話になってしまいました。
現代において鉄道車両の座席にはたくさんの要求があります。座り心地、着席区分、安全性、デザイン性…多様なニーズに応えるため様々な工夫が施された座席が存在します。ぜひ鉄道車両を利用された際には、座席の形状にも少し目を向けてみてください。
その他
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